宇宙の管理者。そう呼ばれる何者かが居ることをご存知だろうか。

 この管理者は滑稽なことに、世界を思うようにコントロールすることは一切出来ない。ただ、世界を自分の目で見つめ続けるだけの、寂しい存在。

 世界線によって、一つ一つの未来は確定している。そのため、いかなる事象も変更することは出来ない。個々の人類は「自分の運命を変えた」などと宣っていることがあるが、それはあくまで個人の中での話。運命など変わってはおらず、一本のレールをただ走り続けているだけ。山があろうが谷があろうが、結局は一本道に変わりはない。

 そのレールを、管理者は見届け続ける。まるで、誰かを監視するかのように。
 そして、管理者は人類の生活に溶け込み、あたかも人間かのように振る舞いながら過ごし続ける。

 案外、身近な場所で、あなたを見ているのかもしれない。
 例えば日常生活の代名詞、学校に居たならば……。

    ★☆★

「朝倉研究所?」
「うん。鈴香も一緒にどうかなと思って」

 『乙咲オトサキ 鈴香スズカ』中学一年生。私立天ノ峰中学にある日転入してきた、謎多き少女。その金色に煌めく髪色はクラスメートの心をときめかせ、魅了する。

 ただし、その視線を彼女は良い物と感じていない。どちらかというと不快だ。そのため、そういった下劣な視線を向けてこない者だけと関わり合っている。

 例えば話しかけてきた、この少年だ。

「ふぅん……」
「ダメかな……?」
「理系の研究所だったら行きたいな」
「やった! そうだよ、理系だよ!」

 少年は嬉しそうにガッツポーズをする。そこまで嬉しいものなのかと少女は疑問に感じるが、聞くまでもないことである。

「あ、それと、ベガも一緒に来るけどいいかな?」
「ル、ルディミ……ヘイムさんが?」
「うん、ダメ?」
「……寧ろ大歓迎。名前で噛んだだけ」

 周囲に何も悟られないための、些細な嘘をつく。

 『ルディミヘイム』とは、ベガという少女の苗字であると同時に、鈴香の過去にも縁がある地名だ。
 決して良い思い出ではないため、どうしても口に出すのが憚られる。

 この、ルディミヘイムは、数百年前に猟奇的惨殺事件が起きた地名であるからだ。一家惨殺事件として語り継がれているこの事件は、犯人が分からないまま時間だけが過ぎていってしまった。やがて事件という名を超えて、オカルトという形で世の中に広がっていったのだ。

 思い出。鈴香にとっての、嫌な思い出。
 それを誰も知る由がないだろう。その事件がこの鈴香による犯行であろうとは。

「どうしたの、そんな難しい顔して……」
「生まれつきの顔よ」
「や、いつも以上にさ」
「別に」

 『いつも以上に』という言い方に、デリカシーの欠片もあったものではない。だが事実、鈴香の表情は滅多に変わらない。いつも無表情か、それとも顔をしかめながら、何かを考えているか。

 少年としては、その表情に変化をもたらしたい。硬い表情を少しでもほぐして、朗らかな笑みを浮かべてもらいたい。その一心である。
 そこに愛がある訳でも、何か特別な感情がある訳でもない。少年としては人助けのつもりなのだ。少女としては迷惑な話ではあるのだが。

 ただ、その気持ち自体には決して悪い気はしない。ある意味これも宿命なのだと、少女は割り切っているのだ。自分の使命を終えるまでは、決して世界の観測を辞めることは許されない。
 拒絶をするのも愚痴を言うのも、最早疲れてしまった。全ての結末を知っているからこそ、彼女はそれを受け入れる。

「じゃあ、放課後ね!」
「ええ。また」

 何も変えられない。だからこそ、この世界を見つめ続ける。
 未来も過去も、全てが見えてしまう。管理者に仕立て上げられた者であるが故に……。

『こんな世界が、私は――』

(次回に続く)